税理士法人サステナブレイン 宇都宮

 

2025年6月6日(金)~7日(土)の二日間に渡り、長野市のシャトレーゼホテルにて、「TKC関東信越会ニューメンバーズの集い2025 in長野」が開催され、そのパネルディスカッション「開業体験座談会」でパネリストを務めさせていただきました。

今回は、私がそこでお話しした内容をご紹介したいと思います。

当日、参加者に配付された私のレジュメはこちら

 

目次

  1. 自己紹介、事務所概要
  2. 開業時の取り組み
  3. 関与先拡大の取り組み
  4. TKCシステムの活用状況
  5. TKCに入会して良かったこと
  6. 目指すべき事務所像、参加者へのメッセージ

 

 

1.自己紹介、事務所概要

栃木支部の岡本貴志と申します。私も公認会計士で(注:今回のパネリストは偶然にも全員公認会計士でした。)、監査業務を経験したのち、長らく、Big4系列のアドバイザリー部門で事業再生とM&Aに従事しておりました。その間、大手不動産デベロッパーに出向し沖縄のリゾートホテルのM&Aに関与したり、中国・上海での駐在など様々な経験をさせていただきました。そして、2020年に、当時コロナ禍1年目でしたが、宇都宮市で公認会計士事務所を開業し税理士登録しました。ゼロ開業でした。

開業当初からTKCに入会しないかとお誘いを受けていましたが、結局、入会したのは開業後1年経過した頃でした。開業後、TKCに入会するまでの経緯については後ほどお話しさせていただきます。

その後、他事務所を承継するという機会があり、税理士法人を設立しました。承継した事務所というのは古くからのTKC会員事務所ではありましたが、会計はほぼ他社システムという事務所でした。職員も3名承継しましたが、職員に関する悩みは現在も尽きません。

「ゼロ開業」と「事務所承継」の両方を経験しているのが私の特徴かと思います。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

2.開業時の取り組み

(実際のパネルディスカッションでは、私はこのパートの発言機会はありませんでしたが、仮に発言機会があったとすればこんなことを話しました。)

対外的に「開業しました!」と公表したのが2020年9月1日。それに至るまで、半年くらい掛けて、少しずつ準備を進めていきました。具体的に行ったことを列挙しますと・・・

  • 事業コンセプトの検討(ビジョン、ミッション、バリューの定義)
  • 誰に何を売っていくか、お客様候補にどうアプローチするかの検討
  • 仕事用のPC、スマホの購入
  • ロゴの制作(ココナラで外注)、名刺デザイン
  • インターネット・ドメインの取得
  • ホームページの制作(最初はWord Pressで自作しました!)
  • SNSアカウント作成
  • 自分の写真撮影(写真館でちゃんと撮ってもらいました!)
  • 自己紹介資料の制作(PowerPoint数枚で自分のプロフィール、サービス内容など)
  • 電話番号・FAX番号の取得
  • 事務所の賃借(オフィスビルの一室)
  • デスク等の什器、複合機など備品の買い揃え
  • 営業車の購入(安い中古車)
  • 株式会社(コンサルティング会社)の設立
  • 印鑑セットの発注
  • システムベンダーの選定(当初は、弥生会計とJDL IBEXクラウドでした。)
  • 各種登録手続(認定経営革新等支援機関など)
  • 最初に受注を狙っていたコンサル案件の提案書を作成
  • 同業者への挨拶周り、金融機関訪問
  • 税理士紹介会社への登録(複数社)

これらのタスクをExcelに列挙し、スケジュール管理しました(ガントチャートを作成)。2020年3月くらいから徐々に取り掛かりましたが、ちょうど新型コロナウイルスが騒がれ出した頃で、当時勤務していた会社でもリモートワークになりました。なので、準備に費やせる時間は結構ありました。(笑)

 

9月1日の開業直後に最初に頂いたお仕事が、学校法人の監査業務(1日5万円)でした。監査業務からは久しく離れていましたが、公認会計士として監査業務の有難さを改めて実感しました。

続いて、友人の税理士からの紹介で、地元有力企業の財務コンサル(月額20万円)を受注。これは2年くらいでお役御免になったのですが、金融機関に名前を売るいいきっかけになりました。そして、当初から狙っていた別の企業に対するコンサル案件(PMI)を受注。これは3年くらい続きました。

更に、中小企業活性化協議会(旧再生支援協議会)からも事業再生案件のお仕事をいただけるようになり、事業のベースが出来上がりました。

 

税理士登録は少し遅れて、その年の11月でした。税務顧問の仕事などは急には増やせないと思っていましたので、開業当初は公認会計士としての営業に注力しましたが、これが正に公認会計士の強みかと思います。

 

 

3.関与先拡大の取り組み

(1)紹介会社

レジュメに3点書かせていただきましたが、まず、「紹介会社」のお話しです。これは失敗談ですが、開業当初、税務顧問先ゼロでしたので、ご多分に漏れず、「紹介会社」に手を出しました。そこで、質の悪い記帳代行案件ばかりを請けまくり、当時、自分一人で、大変な思いをしたという経験があります。

お陰でこれが自分の税理士としての軌道修正を考えるきっかけとなり、TKC入会を決意したという経緯になります。

 

(2)金融機関

次に銀行の話です。何のコネクションも無いところから、「どうやって金融機関と接点を持つか」というのが最初の関門になるかと思います。私の場合、事業再生をやっていたものですから、地元で既に活躍している公認会計士の先輩に頼んで、地銀の本部の専門部署を紹介してもらいました。そして、勉強会(事業再生の事例紹介)を開催させてもらいました。幸い、これが好評で、「すごく良かった」と言っていただき、「そのお礼と言っては何ですが、税務顧問として先生を紹介したい」と言ってもらったのが銀行紹介案件第1号でした。

今も、この部署からは時々ご紹介を頂きます。但し、事業再生フェーズの会社になりますので、色々な意味で大変です。(笑)

 

他方、近隣の複数の支店さんに、2か月に1回「事務所通信」を持参して訪問するようにしています。もう2年以上続けていますが、今年に入り、ようやく成果が表れ、紹介が来るようになりました。

きっかけは、3年前のこの「集い」で講演された北陸会の松岡茂先生のお話を聞いたことでした。お客様への「事務所通信」の説明をルーティン化し、更には、銀行へも毎月持参して説明されているとのこと。「よし、自分もやってみよう。」と思い、開始しました。毎月は行けていませんが。

電話してアポを取ろうとすると、面談を断られることはありませんが、殆どの場合、いい感触はありません。またか、という感じで面倒臭がられます。多少の根気強さが必要です。

本当は、出来合いの「事務所通信」ではなく、栃木のK先生や新潟のI先生のように、オリジナルのニュースレターを制作して届けられるのが理想です。しかし、オリジナルのニュースレターを毎月作ることなど、とてもハードルが高く、到底、真似できそうにありません。

 

訪問先の支店長から言われたことがあります。「実は、この「事務所通信」、いろんな事務所さんから頂くんですよ。」「最近は封も開けずにごみ箱行きですね~。」「こうやってお越しいただいて説明してくれるのは岡本先生だけだから有難いです。」

本当かどうかは分かりませんが、兎に角、会いに行って話をするというのが大事だと思っています。

 

(3)ホームページ

最後にホームページの話。私の事務所は「ホームページを見た」と言って来るお客様が結構います。実際、それを狙って、結構まじめに作り込んでいます。開業当初はホームページを自作したとお話ししましたが、やっぱり自作では格好いいWEBサイトはできません。現在のホームページは100万円くらい掛けて外注しました。

外注したと言っても、コンテンツはすべて自分で考え、作文しました。見る人は隅々まで見ます。私が書いたコンセプト・方針、サービス内容に共感いただいた上で関与先になってくれた会社様とは本当に良いお付き合いが出来ています

よく、「ネット経由で来る客なんてろくでもない」という税理士がいます。確かに、ホームページを見ましたと言って来るお客様の層は色々で、成約率も決して高くはありません。但し、間口は広い方が絶対いいと思っています。

これからどうやって継続的に関与先を増やしていくかと考えた時に、ネット経由での集客は無視できないと思っています。

もっと言えば、これからの時代、一般の人々はどうやって税理士を探すのでしょうか。ひょっとしたら、Googleなどで検索する時代ではなくなるかもしれない。InstagramやYouTubeで探すのが当たり前の世界になるかもしれない。その点、コーディネーターのC先生の取り組みは先進的であり、見習いたいと思っています。

 

岡本貴志

 

 

 

4.TKCシステムの活用状況

(新規関与先にはフルパッケージで導入)

新規のお客様については、FXクラウドで自計化してもらうことを前提に話をします。これまで会計事務所に記帳を依頼していたという会社様に対しては、自社で記帳することの意義から説明し、「当事務所がしっかりとサポートしますので自計化をやってみましょう!」と言っています。

そして、新規先には例外なく、銀行信販データ受信、証憑保存(電子取引データだけでなくスキャナ保存まで)、電子納税、TKCチャットを導入します。これらすべてを使えるように、初期指導の段階で一気に設定してしまいます。

スキャナ保存を導入してもらうための話法としては、「紙の領収書の整理、大変じゃないですか?」「これからはペーパーレスで行きますよ」「今はこういう時代です」と言っています。ほぼすべてのお客様が「いいですね」「やりたいです」と言い、皆様スキャナを購入してくれます。これまでに、スキャナ保存を導入した関与先からは不満・クレームなど一切なく、むしろ、感謝されます。「以前の税理士は何も提案してくれなかった」と。

電子納税も、毎月の源泉所得税と住民税の納税は、関与先自身で出来るようになることが重要です。いつまでも事務所側でやってあげては駄目と職員には言っています。新規のお客様については、ダイレクト納付が未申請であれば、必ず申請してもらうようにしています。電子納税かんたんキットは最初は取っ付きにくいですが、「やってあげる」のではなく「やり方を教えてあげる」です。3~4か月もすれば、関与先が自分で勝手にやるようになります。

 

(継続MAS)

継続MASも標準業務としています。うちの事務所では各関与先への決算報告会の最後に、社長と一緒に継続MASの画面を見ながら予算検討会議を行っています。社長の前で数字を動かして見せると、結構、真剣に考えてくれます。こうして策定した予算は社長にとって「自分事」となり、その後の予実比較が意味を持つようになります。なので、会計事務所側で勝手に予算登録してしまうのは全くもってナンセンス、社長に継続MASの画面を見せながら数字をいじくることに意義があるのだと職員には言っています。

そして、年度の後半になったら業績予測・納税予測。これを決算のタイミングまで毎月やるようにしています。税理士に対する不満の上位に挙げられるのが、「税額を納期限直前になって通知された。」です。実際にうちに移ってくるお客様に以前の税理士について尋ねるとだいたいこれです。この業績予測・納税予測をちゃんと行っていないと解約されるとの危機意識を持っています。所内ミーティングでも、我々の業務の中でこれが最も重要だと口を酸っぱくして言っています。

実は、TKC入会前に、複数のベンダーのシステムについて機能比較を行いました。私が最終的にTKCを選んだ要因としては「継続MAS」が一番大きいです。自分一人ならExcelで何でも出来てしまいますが、将来職員が増えていったときに、経験の浅いスタッフでも、半ばオートマチックに、非常に簡単に予算策定や納税予測が出来てしまうというのが大きな魅力です。

 

(他社システムからの移行)

承継した関与先については、他社システムからTKCに相当数を移しました。お客様にとってはシステム費用が増えるため、メリットを訴求しなければなりませんが、先ほど申し上げた継続MASで予算管理・業績管理できること、TKCモニタリング情報サービスを利用できること、そして何よりも「自計化」の意義。「数値に基づき適切な経営判断ができる体制、これが真の経営である」旨、そしてこれらを実現するためにはTKCシステムの利用が不可欠であると説明しています。

社長自身が普段から自社の数字をよく見ている会社はだいたい黒字です。「社長に数字に関心を持ってもらう」「社長が数字を読めるようになる」。こうなるよう指導するのが我々の重要な役割だと思っています。

 

(事務所の内部管理)

一方、事務所の内部管理面については、OMSクラウドの機能は結構使っています。ワークストリームクラウド(WSC)もサービス開始後すぐに使い始めました。休暇申請やシステム・備品の購入申請などに使っているほか、うちでは、「社長面談報告」をWSCを通じて上げてもらっています。

と言いますのも、過去に、担当者が関与先の社長とコミュニケーションを取っていなかったことが原因で契約解除が立て続けに起こりました。どんなに真面目に巡回監査をやっていても、社長と会って話していなければ、社長から見たら「何をやっているのか分からない」「何もしてもらっていない」となってしまいます。

30分でも15分でも良いので毎回社長に会い、何か話してくるようにと職員には指導しています。

 

他方、事務所の経理は、FX4クラウドを使っています。FMSの請求データ・入金データ、TKC請求DBのデータを読み込ませ、事務所の経理は瞬時に終わります。今、これを私一人で行っているので、今後は部分的にでも、総務スタッフにやらせようと思っています。

また、職員一人ひとりを「部門」として設定しており、職員ごとのPLが出るようになっています。PL数値と給与を連動させることの是非については今後の検討課題ですが、少なくとも職員との面談時にこれを見せ、目標設定に使いたいと思っています。

更に、今年は、関与先へのペポルインボイスの送付を本格的に進めていく方針です。

 

 

5.TKCに入会して良かったこと

TKCに入会して良かったのは、何より、税理士としての「軸」が定まったことだと思っています。TKC全国会の運動方針に従ってやっていけば間違いないと確信しています。特に私の場合、過去に、記帳代行案件を請けまくり、違う方向に行きかけた経験があります。だからこそ、「確固たる事業方針」を持てるという尊さを今しみじみと感じます。

また、全国の先進事務所の事例を学べたり、地域会の先輩会員や仲間たちと事務所経営について議論・情報交換できるという環境は本当に貴重です。

 

それから、TKC会員であることで「金融機関から一定の評価を得られる」という点はとても大きいです。「モニタリング情報サービス」は大きな武器だと思います。

初対面で「TKC会員です」というと、「そうですかTKCですか。じゃあ安心ですね。」となります。

書面添付については、私は、ちょっと変わっていて、金融機関に読ませることを意識して書いています。実際に読んだ行員の方からは「先生のところの記載書面は一味違いますね」「会社の内容がすごく理解できる」と言ってもらっています。TKCに入会してなかったら、こうはならなかったかもしれません。

TKC会員であることで「税理士としての評価」もそうですが、金融機関から見た「関与先の評価」もある程度高まるという効果はあると思っています。

 

 

6.目指すべき事務所像、参加者へのメッセージ

実は、承継した職員の中に、かねてより私に反発し、対応に苦慮している職員が1名おります。何とかマネージして、ベクトルを同じ方向に向かせたいと思っていましたが、残念ながら、先日、本人から「退職したい」と申し出がありました。

職員の離脱はとても残念ではありますが、私自身、正直「やりにくさ」を感じていましたし、他のスタッフへ与えるネガティブな影響を考えると、むしろ良かったと捉えています。これからは、所内で理念を共有し、一丸となって運営してける事務所を作りたいと思っています。

 

関与先も職員ももっと増やしたい。将来的にはレジュメに書いたような事務所にしたいと思っています。目指す事務所像は、一言で言うと「人も羨む、地域で評判の事務所」です!

開業して5年足らず。様々なことにチャレンジし、色々経験してきました。これからの5年もとても楽しみです。「失敗を恐れず、行動あるのみ!」これが皆様へのメッセージです。本日はお聴きいただき、ありがとうございました。