固定資産売却の仕訳と消費税 宇都宮 税理士

 

不動産や車両などの固定資産を売却した際、その会計処理をどのようにすればよいのか、時として専門家でも迷ってしまうことがあります。その要因は「消費税」の存在です。

今はどうか知りませんが、私が公認会計士の受験勉強をしていた30年前、簿記の試験問題はすべて「消費税は考慮しなくてよい」という前提が置かれていました。しかし実務は異なります。試験に合格した新人会計士でも、消費税の取扱いを知らなければ仕訳一つまともに作成することはできません。

今回は特に、実務で迷ってしまう固定資産売却時の仕訳について、消費税申告を正しく行うという観点から、そのベストな方法を考えたいと思います。

 

目次

  1. 課税資産の範囲と消費税の基本的な考え方
  2. 「売却益」が出た場合の仕訳
  3. 「売却損」が出た場合の仕訳
  4. コツは、まず、「売却益」が出たのか「売却損」が出たのかを認識すること
  5. 土地を売却した場合
  6. 簡易課税を選択している場合

 

1.課税資産の範囲と消費税の基本的な考え方

譲渡時に消費税の課税対象となる資産は、建物、機械、車両、備品などの有形資産のほか、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの権利やノウハウ、電話加入権など、およそ譲渡取引の対象となるすべてのものがその対象となります。

一方、土地の譲渡は、非課税取引とされています。権利金・敷金についても同様です。

そして重要なのは、資産の譲渡に係る消費税とは、法人税のように「売却益」に対して課されるのではなく、益が出たか損が出たかに関わらず「譲渡価額(譲渡収入)」に対して課されるということです。この基本を理解していないと、正しい会計処理を行えなくなりますので注意が必要です。

 

 

2.「売却益」が出た場合の仕訳

よくある車両の売却を例に、仕訳を考えてみましょう。

(例)

  • 車両の期首帳簿価額 100
  • 期中の売却時までの減価償却費 30
  • 売却価額(売却収入) 220(うち消費税20)

 

期中に売却した資産に係る減価償却費は、計上する場合としない場合があります。減価償却費を計上しない場合は、その減価償却費相当額は結果として固定資産売却損益に含めて損益計算書に計上されることになりますが、本来であれば、売却するまでは使用していた訳であり、その費用は営業損益に反映されるべきと考えます。そのため、この例では売却時までの減価償却費を計上するという会計処理を採用するものとします。

そうすると、売却時の減価償却実施後の帳簿価額は70(=100-30)、売却価額は税抜き200ですから、この取引から売却益130が生じたことが分かります。

一つの仕訳で表現するとすれば、このようになります。

借方 貸方
減価償却費 30 車両 100
現金預金 220 固定資産売却益 130
    仮受消費税 20

 

しかし、実務的には上手くありません。

会計ソフトで仕訳を入力する際、消費税区分を正しく設定しておかなければ正しい消費税申告書は作成できません。この例では、売却価額が税抜き200ですので、課税売上200を何らかの形で入力する必要がありますが、貸方に200という数字はありません。つまり、この仕訳の方法では、正しい消費税の処理ができないのです。

ではどうするか? 以下が答えになります。

ポイントは、①売却価額(売却収入)の仕訳と ②帳簿価額(売却原価)の仕訳に分割して仕訳を作成するという点です。

 

① 売却価額(売却収入)の仕訳

借方 貸方
現金預金 220 固定資産売却益(課税売上) 200
    仮受消費税 20

 

まず、売却価額(売却収入)の全額を「固定資産売却益」に計上します。この時の消費税区分は「課税売上」とします

 

② 帳簿価額(売却原価)の仕訳

借方 貸方
減価償却費(不課税) 30 車両(不課税) 100
固定資産売却益(不課税) 70    

 

次に、固定資産の帳簿価額を落とす仕訳です。期中の減価償却費を控除した70が売却時の原価となります。これを固定資産売却益として借方に計上します。また、この時の消費税区分は「不課税」とします。貸方に計上する車両100も「不課税」とします。

 

上記① ②を合わせると、会計上は固定資産売却益は貸方130となり、また、税務上も課税売上200が正しくカウントされている状態となります。これで会計的にも税務的にも正しい処理となりました。

 

 

3.「売却損」が出た場合の仕訳

次に、売却損が生じたケースを考えてみましょう。

(例)

  • 車両の期首帳簿価額 100
  • 期中の売却時までの減価償却費 30
  • 売却価額(売却収入) 55(うち消費税5)

 

売却時の減価償却実施後の帳簿価額は70(=100-30)、売却価額は税抜き50ですから、この取引から売却損20が生じたことが分かります。

一つの仕訳で表現するとすれば、こうなります。

借方 貸方
減価償却費 30 車両 100
現金預金 55 仮受消費税 5
固定資産売却損 20    

 

これを、消費税計算においても正しく処理するためには、売却益が生じた場合と同様に、①売却価額(売却収入)の仕訳と ②帳簿価額(売却原価)の仕訳に分割して仕訳を作成します。

 

① 売却価額(売却収入)の仕訳

借方 貸方
現金預金 55 固定資産売却(課税売上) 50
    仮受消費税 5

 

変な感じがしますが、貸方に「固定資産売却」(課税売上)を計上します。

 

② 帳簿価額(売却原価)の仕訳

借方 貸方
減価償却費(不課税) 30 車両(不課税) 100
固定資産売却(不課税) 70    

 

次に、固定資産の帳簿価額を落とす仕訳です。これは、基本的に売却益が出た場合の仕訳と同様ですが、売却原価の70の科目が「固定資産売却」となります

 

上記① ②を合わせると、会計上、固定資産売却損は借方20となり、また、税務上は課税売上50がちゃんとカウントされている状態となります。会計的にも税務的にも正しい処理が完成しました。

 

 

4.コツは、まず、結果として「売却益」が出たのか「売却損」が出たのかを認識すること

上記のとおり、「売却益」が出た場合、売却簿価を「固定資産売却」のマイナスとして借方に計上し、逆に「売却損」が出たケースでは売却収入を「固定資産売却」のマイナスとして貸方に計上します。

売却益が出たケースも売却損が出たケースも仕訳のスタイルとしては基本的には同じなのですが、損益計算書上、結果として「固定資産売却」が計上されるのか、「固定資産売却」が計上されるのかによって、どっちの科目を使うのかを判断しなければなりません。

よって、上記のような仕訳を作成する際には、まず、この売却取引によって「益」が出たのか「損」が出たのかを把握することが必要です。簡単ですよね。

 

 

5.土地を売却した場合

一方、土地を売却した場合はどうでしょう。土地の譲渡は非課税取引だから、消費税は考慮する必要がないというのは誤りです。土地の譲渡すなわち非課税売上も、その期の課税売上割合の計算上、資産の譲渡等の対価(分母)に含まれます。

したがって、土地を売却した場合も、上述した通り、売却価額(売却収入)と帳簿価額(売却原価)とに分け、正しい消費税区分を設定した上で仕訳計上しなければなりません。

 

この点、土地の売却により、課税売上割合が低下すると、場合によっては、支払った消費税のうち控除する額が少なく計算され、消費税を通常より多く納めなければならなくなる事態が生じます。

 

この問題については、国税庁より、単発的な土地の譲渡があったときは、「課税売上割合に準ずる割合」の適用が受けられる旨のガイドラインが出されています。

すなわち、①前3年を通算した課税売上割合 又は ②前事業年度の課税売上割合 のいずれか低い割合を適用することが出来るというもので、この適用を受けるためには、期末日までに承認申請書を提出しなければなりません。

詳しくは、国税庁のWEBサイトをご覧ください。「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認」

 

 

6.簡易課税を選択している場合

簡易課税を選択している場合も、上記と同様の処理が必要ですが、注意しなければならないのは「事業区分」です。

簡易課税を選択している場合、固定資産の譲渡取引は、本業の事業区分に関わらず、「第4種事業」とされます。つまり、みなし仕入率は60%となり、売却価額に係る消費税の40%相当額を納税することになります。

 


 

以上、固定資産売却時の仕訳について、消費税の観点から解説しました。ご参考になれば幸いです。