前回のブログでは、法人が貸倒損失を計上できるケースについて解説しました。貸倒損失は、債権が既に回収不能となった場合に計上するものです。
一方で、実際の決算では、「まだ貸倒れが確定したわけではないが、回収に大きな不安がある」というケースもあります。このような場合に検討されるのが、「貸倒引当金」です。
ただし、法人税法上の貸倒引当金は、会計上の貸倒引当金とは考え方が異なります。会社が任意に見積もった金額を自由に損金算入できるわけではなく、損金算入できる法人、対象となる債権、繰入限度額などが細かく定められています。
今回は、法人税法上の貸倒引当金について、特に実務上判断に迷いやすい「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金」を中心に解説します。
| 目次 |
1.貸倒引当金とは
貸倒引当金とは、売掛金、貸付金、未収入金などの金銭債権について、将来、貸倒れが発生する可能性を見積もって計上する引当金です。
例えば、期末時点で売掛金が1,000万円残っている場合に、その一部について将来回収できない可能性があると見込まれるとき、会計上は貸倒引当金を計上することがあります。会計上は、債権の回収可能性を考慮して、必要な貸倒引当金を計上します。
しかし、法人税法上は、会計上計上した貸倒引当金がそのまま損金になるわけではありません。
法人税法では、貸倒引当金について、
・損金算入できる法人
・対象となる金銭債権
・繰入限度額
・申告書への明細書添付
・疎明資料の保存
などを細かく定めています。
そのため、決算で貸倒引当金を計上する場合には、
・会計上必要な貸倒引当金
・法人税法上損金算入できる貸倒引当金
・税務上は損金不算入となる貸倒引当金
を分けて考える必要があります。
2.貸倒損失と貸倒引当金の違い
前回解説した貸倒損失と、今回の貸倒引当金は、どちらも債権の回収不能に関係する処理です。ただし、両者は適用されるタイミングが異なります。
貸倒損失は、すでに債権が回収不能となった場合に計上する損失です。
例えば、
・再生計画により債権の一部が切り捨てられた
・債務者の財産状況等から見て全額回収不能であることが明らかになった
・売掛債権について取引停止後1年以上弁済がない
といった場合には、貸倒損失の計上を検討します。
一方、貸倒引当金は、まだ貸倒れが確定していないものの、将来の貸倒れが見込まれる場合に計上するものです。
例えば、取引先について民事再生手続開始の申立てが行われたものの、まだ再生計画が認可されておらず、最終的にいくら回収できるか分からない場合があります。
この段階では、債権の切捨額が確定していないため、貸倒損失として処理することは難しい場合があります。
しかし、法人税法上の要件を満たせば、一定額を個別評価金銭債権に係る貸倒引当金として損金算入できる可能性があります。
つまり、
・貸倒損失は「損失が確定した段階」の処理
・貸倒引当金は「損失が見込まれる段階」の処理
と整理すると分かりやすいと思います。
3.貸倒引当金を損金算入できる法人
法人税法上、貸倒引当金の繰入額を損金算入できる法人は限定されています。
一般的な中小企業で重要なのは、資本金1億円以下の普通法人であるということです。
ただし、資本金1億円以下であっても、大法人による完全支配関係がある法人や、大通算法人などは対象外となる場合があります。
また、金融機関、保険会社、一定のリース取引に係る金銭債権を有する法人、公益法人等、協同組合等についても、一定の範囲で貸倒引当金の損金算入が認められています。
中小企業の決算では、昔から貸倒引当金を毎期計上している会社もあります。
しかし、現在の法人税法では、貸倒引当金の損金算入が認められる法人は限定されています。
そのため、まず最初に確認すべきことは、「その法人が、そもそも貸倒引当金を損金算入できる法人か」
という点です。
特に、グループ会社がある場合、親会社が大法人である場合、グループ通算制度を適用している場合などは注意が必要です。
4.貸倒引当金には「一括評価」と「個別評価」がある
法人税法上の貸倒引当金は、大きく次の2つに分かれます。
1つ目は、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金です。
これは、通常の売掛金、貸付金、受取手形などについて、過去の貸倒実績や法定繰入率に基づき、全体として貸倒見込額を計算するものです。
2つ目は、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金です。
これは、特定の債務者について、法的整理、破産申立て、債務超過の継続などの事情が生じ、個別に回収不能リスクが高まっている場合に、その債務者ごとに繰入限度額を計算するものです。
通常の中小企業の決算では、一括評価の貸倒引当金を毎期計算しているケースが多いと思います。
一方で、税務上判断に迷いやすいのは、個別評価の方です。
特に、
・どの事由に該当するのか
・50%繰入なのか、回収不能見込額まで繰り入れられるのか
・担保や保証人がいる場合にどう考えるのか
・貸倒損失として処理すべきか、貸倒引当金として処理すべきか
といった点で判断に迷うことが少なくありません。
5.一括評価金銭債権に係る貸倒引当金とは
まず、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金について簡単に確認します。
一括評価金銭債権とは、売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で、個別評価金銭債権に該当しないものをいいます。
具体的には、次のような債権です。
・売掛金
・完成工事未収入金
・受取手形
・貸付金
・未収請負金
・未収手数料
・未収地代家賃
・貸付金の未収利息
・保証債務を履行した場合の求償権
一括評価金銭債権については、原則として、期末残高に貸倒実績率を乗じて繰入限度額を計算します。
中小法人については、法定繰入率を使うこともでき、実務上はこの法定繰入率を用いる方法が大半です。法定繰入率は業種ごとに定められており、卸売業・小売業、製造業、金融保険業、その他の事業などで率が異なります。
法定繰入率
| 卸売業・小売業・飲食店業 | 1.0% |
| 製造業(電気工事業、修理業等を含む) | 0.8% |
| 金融業、保険業 | 0.3% |
| 割賦販売小売業、信用購入斡旋業 | 0.7% |
| その他の事業(建設業、ホテル・旅館業、サービス業を含む) | 0.6% |
一括評価の貸倒引当金は、特定の取引先が破産した、民事再生に入った、債務超過であるといった個別事情を直接反映するものではありません。通常の営業債権について、過去の貸倒実績や法定繰入率により、全体として貸倒見込額を計算するものです。
そのため、個別評価に比べると、計算は機械的です。
ただし、次の点には注意が必要です。
・貸倒引当金の損金算入対象法人に該当するか
・対象となる金銭債権か
・個別評価金銭債権に該当するものを一括評価に含めていないか
・前期繰入額の戻入処理を適切に行っているか
・別表の記載が適切か
今回の記事では、一括評価についてはこの程度にとどめ、以下では実務上判断に迷いやすい個別評価金銭債権について詳しく見ていきます。
6.個別評価金銭債権に係る貸倒引当金とは
個別評価金銭債権とは、特定の債務者について一定の事実が生じ、その金銭債権の一部について貸倒れその他これに類する損失が見込まれるものをいいます。
一括評価が「通常の債権全体について一定率で見積もる」制度であるのに対し、個別評価は「特定の債務者について、個別事情に基づいて見積もる」制度です。
例えば、次のような債権が対象になります。
・取引先に対する売掛金
・完成工事未収入金
・貸付金
・未収地代家賃
・未収利息
・保証債務を履行したことによる求償権
・返還請求を行った保証金や前渡金等に係る返還請求債権
ただし、個別評価金銭債権に該当するためには、単に「回収が心配である」というだけでは足りません。
法人税法上定められた一定の事由に該当する必要があります。
実務上よく問題になるのは、次のようなケースです。
・法的整理等により長期分割弁済となった場合
・債務超過が相当期間継続し、事業好転の見通しがない場合
・破産、民事再生、会社更生、特別清算等の申立てがあった場合
・手形交換所等による取引停止処分があった場合
以下では、中小企業実務で特に問題になりやすいこれらの類型を中心に解説します。
なお、法人税法上は、外国政府、外国中央銀行、外国地方公共団体等に対する金銭債権についての特殊な規定もありますが、通常の中小企業実務では該当する場面が少ないため、本稿では詳述しません。
7.個別評価の4類型と繰入限度額
個別評価金銭債権に係る貸倒引当金は、実務上、次の4つに整理すると理解しやすいです。
| 類型 | 主な該当事由 | 繰入限度額の概要 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| a. 長期棚上げ基準 | 更生計画認可、再生計画認可、特別清算協定認可等により、弁済が猶予され、または分割弁済となった場合 | 債権額のうち、事由発生事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済される金額以外の金額。ただし、担保等により回収見込みがある部分を除く | 「5年以内に弁済される部分」は対象外。すでに切り捨てられた部分は貸倒損失を検討 |
| b. 実質基準 | 債務超過が相当期間継続し、事業好転の見通しがない場合等 | 債権額のうち、取立て等の見込みがないと認められる部分の金額 | 「相当期間」はおおむね1年以上。ただし、赤字や債務超過だけでは不十分 |
| c. 形式基準① 申立て等 | 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始等の申立てがあった場合 | 債権額から、実質的に債権とみられない部分、担保・保証等による回収見込額を控除した残額の50%相当額 | 申立て段階では、原則として50%基準。計画認可後は別の処理を検討 |
| d. 形式基準② 取引停止処分等 | 手形交換所による取引停止処分、一定の電子債権記録機関による取引停止処分等 | 債権額から、実質的に債権とみられない部分、担保・保証等による回収見込額を控除した残額の50%相当額 | 不渡り日、取引停止処分日、決算日、申告期限の関係を確認 |
この表のとおり、個別評価金銭債権といっても、類型によって繰入限度額の計算方法が異なります。
特に注意したいのは、破産や民事再生の申立てがあった場合でも、無条件に債権全額の50%を引当できるわけではないという点です。担保、保証、相殺可能額、営業保証金、預り金などにより回収できる部分は、繰入限度額の計算から除外する必要があります。
また、実質基準については、50%という機械的な基準ではありません。取立て等の見込みがないと認められる部分の金額を、個別に見積もる必要があります。
a. 長期棚上げ基準
まず、更生計画、再生計画、特別清算協定などにより、債権の弁済が猶予され、または分割弁済となった場合です。
例えば、次のようなケースです。
・取引先が民事再生手続に入り、再生計画により売掛金を10年間で分割弁済することになった
・会社更生計画により、債権の一部が長期間にわたり分割弁済されることになった
・特別清算協定により、一定額を数年かけて弁済することになった
この場合、債権がすぐに全額切り捨てられたわけではありません。
しかし、弁済が長期にわたる場合には、将来回収できないリスクや、経済的価値の減少が生じます。
そこで、法人税法上、一定の貸倒引当金の繰入れが認められています。
繰入限度額
このケースでは、概ね次の金額が繰入限度額となります。
債権額から、
・事由が生じた事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済される予定の金額
・担保権の実行その他により回収見込みがある金額
を控除した金額です。
言い換えると、5年以内に弁済される予定の部分は、貸倒引当金の対象から除かれます。
一方、5年を超えて弁済される予定の部分については、一定の範囲で貸倒引当金の繰入れが認められます。
具体例
例えば、次のようなケースを考えます。
・売掛金残高 1,000万円
・民事再生計画が認可された
・今後5年以内に弁済される予定額 300万円
・担保により回収できる見込額 100万円
・残額は5年超の期間で弁済予定
この場合、繰入限度額は次のようになります。
1,000万円 − 300万円 − 100万円 = 600万円
したがって、600万円を上限として、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金を計上できる可能性があります。
実務上の注意点
このケースで重要なのは、再生計画や更生計画などの内容を正確に確認することです。
単に「民事再生に入った」というだけではなく、
・いつ計画が認可されたのか
・債権のうち、いくらが切り捨てられたのか
・いくらが分割弁済されるのか
・5年以内にいくら弁済されるのか
・5年を超えて弁済される金額はいくらか
・担保や保証による回収見込みはあるか
を確認する必要があります。
また、すでに債権の一部が切り捨てられている場合には、その切り捨てられた部分は貸倒引当金ではなく、貸倒損失として処理することを検討します。
この点が、貸倒損失との重要な分岐点です。
「切り捨てられた部分」は貸倒損失。
「切り捨てられてはいないが、長期分割弁済となった部分」は貸倒引当金。
このように整理すると分かりやすいと思います。
b. 実質基準
次に、債務者が債務超過の状態にあり、それが相当期間継続し、かつ、事業好転の見通しがない場合です。
実務上、最も判断が難しいのがこのケースです。
法的整理の申立てや再生計画の認可などがあれば、客観的な資料によって比較的判断しやすい面があります。
しかし、実質基準は、法的整理には至っていないものの、債務者の財務状態や事業状況から見て、債権の一部について回収不能が見込まれる場合です。
例えば、次のようなケースです。
・債務者が長期間債務超過である
・毎期赤字が続いている
・資金繰りが悪化している
・金融機関からの追加融資が受けられない
・主要取引先を失い、売上回復の見込みが乏しい
・事業所を閉鎖し、営業活動が大幅に縮小している
・代表者から分割弁済の申出はあるが、実行可能性が乏しい
・担保処分後も相当額が回収不能となる見込みである
法人税基本通達では、「相当期間」とはおおむね1年以上とされています。
ただし、単に1年以上債務超過であれば直ちに貸倒引当金を計上できる、という意味ではありません。
重要なのは、
・債務超過の状態が相当期間継続していること
・その事業に好転の見通しがないこと
・金銭債権の一部について取立て等の見込みがないと認められること
です。
繰入限度額
このケースでは、取立て等の見込みがないと認められる部分の金額が繰入限度額となります。
50%という機械的な基準ではありません。
回収不能と見込まれる金額を、個別に見積もる必要があります。
例えば、次のようなケースを考えます。
・貸付金残高 2,000万円
・債務者は3期連続赤字
・純資産は大幅な債務超過
・担保不動産の処分見込額 700万円
・保証人からの回収見込額 300万円
・その他の回収見込みなし
この場合、単純化すると、回収見込額は1,000万円です。
2,000万円 − 1,000万円 = 1,000万円
この1,000万円が、取立て等の見込みがない部分として、貸倒引当金の繰入対象となる可能性があります。
ただし、実際には、担保評価額、処分費用、優先債権、保証人の資力、他の債権者の状況などを慎重に確認する必要があります。
「赤字」だけでは足りない
このケースで最も多い誤解は、「相手先が赤字だから貸倒引当金を計上できる」というものです。
赤字であることと、債権が回収不能であることは別問題です。
赤字であっても、
・十分な資産を保有している
・代表者や親会社から資金支援を受けられる
・金融機関からの借入余力がある
・翌期以降に業績回復が見込まれる
・担保や保証により回収可能である
という場合には、直ちに回収不能とはいえません。
また、債務超過であっても、事業再建の具体的計画があり、売上や利益の回復が見込まれる場合には、「事業好転の見通しがない」とまではいえない可能性があります。
したがって、この類型で貸倒引当金を計上する場合には、かなり丁寧な資料整備が必要です。
実務上の注意点
このケースで残しておきたい資料としては、次のようなものがあります。
・債務者の直近決算書
・複数期の決算書
・債務超過の状況が分かる資料
・資金繰り表
・返済計画書
・事業計画書
・金融機関との交渉状況
・督促状や催告書
・債務者との面談記録
・担保評価資料
・保証人の資力確認資料
・社内稟議書や取締役会議事録
特に重要なのは、会社側が「なぜその金額を回収不能と見込んだのか」を説明できることです。
単に「社長が回収できないと言っている」「担当者が危ないと言っている」というだけでは不十分です。
税務上は、客観的な資料に基づいて、回収不能見込額を説明できるようにしておく必要があります。実際のところ、この実質基準で貸倒引当金を計上するのは相当ハードルが高いと言えるでしょう。
c. 形式基準① 破産・民事再生等の申立があった場合
次に、債務者について、破産、民事再生、会社更生、特別清算等の申立てがあった場合です。
このケースは、先ほどの「計画認可後」のケースとは異なります。
まだ再生計画や更生計画が認可されたわけではなく、債権がいくらカットされるのか、配当がいくらになるのかも確定していません。
しかし、法的整理の申立てが行われている以上、債務者の信用状態は大きく悪化しており、債権の回収可能性にも重大な不安が生じています。
そこで、法人税法上、一定額を貸倒引当金として繰り入れることが認められています。
対象となる主な事由
代表的には、次のような事由です。
・更生手続開始の申立て
・再生手続開始の申立て
・破産手続開始の申立て
・特別清算開始の申立て
・これらに準ずる一定の事由
ここで重要なのは、「申立て」の段階であるという点です。
再生計画の認可、会社更生計画の認可、特別清算協定の認可まで進んだ場合には、先ほどの長期棚上げ基準や、貸倒損失の処理を検討することになります。
一方、申立て段階では、まだ最終的な債権の処理が確定していないため、貸倒引当金として一定額を計上する形になります。
繰入限度額
このケースでは、概ね次の金額の50%相当額が繰入限度額となります。
債権額から、
・債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分
・担保権の実行により回収見込みがある部分
・保証機関や保証人等による回収見込みがある部分
・その他、取立て等の見込みがある部分
を控除した残額の50%です。
つまり、破産申立てがあったからといって、債権全額の50%を無条件に引当できるわけではありません。
まず、回収可能額や実質的に債権とみられない部分を控除し、その残額の50%を計算します。
具体例
例えば、次のようなケースです。
・売掛金残高 1,000万円
・取引先について破産手続開始の申立てがあった
・担保により回収できる見込額 200万円
・同じ取引先から受け入れている営業保証金 100万円
・その他の回収見込みなし
この場合、繰入限度額の基礎となる金額は、
1,000万円 − 200万円 − 100万円 = 700万円
となります。
そして、この50%相当額である350万円が繰入限度額となります。
実務上の注意点
このケースでは、次の資料を確認・保存しておくことが重要です。
・破産手続開始申立書
・民事再生手続開始申立書
・会社更生手続開始申立書
・特別清算開始申立書
・裁判所からの通知
・代理人弁護士からの通知
・債権届出書
・債権者説明会資料
・担保や保証の内容が分かる資料
・債務者から受け入れている保証金や預り金の有無が分かる資料
また、申立てがあった事業年度の期末時点で、どのような事実が生じていたかを確認することが重要です。
税務上は、原則として決算日現在の状況に基づいて判断します。
決算日後に事実が発生した場合には、その事実を当期に反映できるかどうか慎重に確認する必要があります。
d. 形式基準② 取引停止処分等があった場合
手形の不渡りや取引停止処分があった場合も、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となることがあります。
手形交換所による取引停止処分は、債務者の信用状態が著しく悪化していることを示す客観的な事実です。
そのため、破産や民事再生の申立てと同様に、一定額の貸倒引当金の繰入れが認められます。
また、電子記録債権についても、一定の電子債権記録機関による取引停止処分が生じた場合には、同様に取り扱われることがあります。
繰入限度額
このケースも、基本的には50%基準です。
債権額から、
・実質的に債権とみられない部分
・担保により回収できる部分
・保証により回収できる部分
・第三者振出手形などにより回収見込みがある部分
を控除した残額の50%相当額が繰入限度額となります。
実務上の注意点
不渡りがあっただけで直ちに取引停止処分となるわけではありません。
また、取引停止処分の時期と決算日との関係も重要です。
例えば、決算日までに債務者の振り出した手形が不渡りとなり、その事業年度の確定申告書の提出期限までに、その債務者について手形交換所による取引停止処分が生じた場合には、その事業年度において形式基準を適用できることがあります。
電子記録債権についても、決算日までに支払期日の到来した電子記録債権について債務者から支払いが行われず、確定申告書の提出期限までに一定の取引停止処分が生じた場合には、同様の取扱いがあります。
そのため、手形や電子記録債権に関係する貸倒引当金を検討する場合には、
・支払期日
・不渡りの発生日
・取引停止処分の日
・決算日
・申告期限
を正確に整理する必要があります。
日付の確認を誤ると、どの事業年度で貸倒引当金を計上できるかを誤る可能性があります。
8.担保・保証・相殺可能額がある場合の注意点
個別評価金銭債権の貸倒引当金で非常に重要なのが、担保、保証、相殺可能額の確認です。
取引先が破産した、民事再生に入った、債務超過である、というだけで、債権全額について貸倒引当金を計上できるわけではありません。
回収できる部分は、繰入限度額の計算から除外する必要があります。
担保がある場合
担保には、例えば次のようなものがあります。
・不動産担保
・質権
・抵当権
・所有権留保
・信用保険
・保証機関による保証
担保がある場合には、その担保を実行したときに回収できる見込額を検討する必要があります。
ただし、担保評価額をそのまま回収可能額とするのではなく、実際の処分可能性、優先順位、処分費用、先順位担保権者の有無なども考慮する必要があります。
例えば、不動産担保が設定されていても、先順位の抵当権者がいて担保余力がない場合には、実質的な回収可能額は限定的です。
一方で、十分な担保余力がある場合には、その部分について貸倒引当金を計上することはできません。
保証人がいる場合
保証人がいる場合も注意が必要です。
特に中小企業では、代表者個人が会社債務を連帯保証していることがあります。
この場合、債務者である会社の資金繰りが悪化していても、保証人に十分な資力があるのであれば、保証人から回収できる可能性があります。
したがって、保証人の資力や回収可能性も検討対象になります。
ただし、次のような場合には、人的保証による回収可能額を考慮しないことができる場合があります。
・保証債務の存否に争いがあり、そのことに相当の理由がある場合
・保証人が行方不明で、かつ、保証人の資産からの回収が見込まれない場合
・保証人について破産等の事由が生じている場合
・保証人が生活保護を受けている場合、またはそれと同程度の収入しかなく、資産からの回収も見込まれない場合
・保証人が個人で、その資産からの回収が見込まれず、年収額が保証債務額の5%未満である場合
実務上は、保証人がいるかどうかだけでなく、
・保証契約の有無
・保証の範囲
・保証限度額
・保証人の資産状況
・保証人への請求可能性
・保証人から実際に回収できる見込み
を確認する必要があります。
相殺可能額がある場合
同一の取引先に対して、売掛金と買掛金の両方がある場合があります。
この場合、売掛金のうち買掛金と相殺できる部分は、実質的には回収可能と考えられます。
また、取引先から営業保証金や預り金を受け入れている場合には、その金額に相当する部分は、実質的に債権とはみられないものとして扱われることがあります。
例えば、次のようなケースです。
・売掛金 500万円
・同じ取引先に対する買掛金 150万円
・営業保証金として受け入れている金額 50万円
この場合、売掛金500万円のうち、少なくとも200万円部分については、相殺や充当の可能性があります。
したがって、貸倒引当金の繰入限度額を計算する際には、これらを考慮する必要があります。
実務上、見落としやすいものとして、次のようなものがあります。
・売掛金と買掛金
・完成工事未収入金と未成工事受入金
・未収地代家賃と敷金
・貸付金と買掛金
・使用人貸付金と預り金
・営業保証金
・借入金
・第三者振出手形
貸倒引当金の検討では、債権残高だけでなく、同じ相手方との債務残高や預り金等も合わせて確認することが重要です。
9.関係会社・役員・親族に対する債権の注意点
個別評価金銭債権の実務で特に注意したいのが、関係会社、役員、親族に対する債権です。
例えば、次のようなケースです。
・子会社や関連会社に対する貸付金
・代表者個人に対する貸付金
・役員やその親族に対する立替金
・グループ会社の資金繰り支援として行った貸付金
・同族関係者に対する長期未収入金
これらの債権について貸倒引当金を計上する場合には、税務調査でも慎重に確認されやすくなります。
なぜなら、第三者間取引であれば通常行われるはずの回収努力が十分に行われていない場合や、実質的には資金援助、利益供与、寄附金、役員給与に近い性質を持つ場合があるからです。
例えば、関連会社に対して資金繰り支援を続けている場合、会社としては「もう回収できない」と考えて貸倒引当金を計上したいことがあります。
しかし、税務上は、
・そもそもその貸付けに経済合理性があったか
・貸付条件は第三者間取引として合理的か
・返済期限や利息の定めはあるか
・返済交渉を行っていたか
・追加融資を続けていないか
・債務者の再建可能性をどのように判断したか
といった点が確認されます。
また、役員や親族に対する貸付金については、回収不能であると判断する前に、
・返済能力の確認
・返済請求の実施
・担保や保証の有無
・給与や役員報酬からの返済可能性
・資産状況の確認
・債権放棄した場合の役員給与認定リスク
などを検討する必要があります。
関係会社や役員等への債権については、単に債務者の財務状態が悪いというだけでなく、取引の経緯、回収努力、経済合理性、社内決裁の状況まで含めて整理しておくべきです。
10.税務調査で確認されやすい資料
貸倒引当金を損金算入する場合には、後日、税務調査で説明できる資料を残しておくことが重要です。
法人税法上、個別評価金銭債権については、その事由が生じていることを証する書類等の保存が重要になります。
資料がない場合、要件を満たしていることを説明できず、貸倒引当金の損金算入が否認される可能性があります。
共通して残しておきたい資料
まず、共通して次のような資料を整理しておきます。
・契約書
・請求書
・納品書
・売掛金元帳
・得意先元帳
・貸付契約書
・返済予定表
・入金履歴
・督促状
・催告書
・内容証明郵便の控え
・メール、FAX、書面でのやり取り
・電話督促の記録
・面談記録
・社内稟議書
・取締役会議事録
法的整理等の場合
法的整理等が関係する場合には、次の資料が重要です。
・民事再生手続開始申立書
・破産手続開始申立書
・会社更生手続開始申立書
・特別清算開始申立書
・裁判所からの通知
・債権者説明会資料
・再生計画案
・再生計画認可決定書
・更生計画認可決定書
・特別清算協定の認可決定書
・債権届出書
・配当見込額に関する資料
債務超過・事業好転見込みなしの場合
債務超過が相当期間継続し、事業好転の見通しがないことを理由にする場合には、特に資料が重要です。
・債務者の直近決算書
・過去数期分の決算書
・債務超過の状態が分かる資料
・資金繰り表
・事業計画書
・返済計画書
・金融機関との交渉状況
・主要取引先の喪失や事業縮小の資料
・休業、廃業、店舗閉鎖等の資料
・担保評価資料
・保証人の資力確認資料
・弁護士等の意見書
この類型は、法的整理のような明確な外部資料がないことも多いため、社内でどのように判断したのかを示す資料が特に重要です。
担保・保証・相殺可能額に関する資料
貸倒引当金の繰入限度額を計算する際には、回収可能額を控除する必要があります。
そのため、次の資料も整理しておく必要があります。
・担保契約書
・登記事項証明書
・不動産評価資料
・先順位担保権者の有無が分かる資料
・保証契約書
・保証限度額が分かる資料
・保証人の資産状況
・買掛金や未払金との相殺可能額が分かる資料
・営業保証金、預り金、借入金等の残高資料
税務調査では、「なぜその金額を回収不能と見込んだのか」が問われます。
そのため、貸倒引当金を計上する場合には、繰入限度額の計算過程を残しておくことが重要です。
11.貸倒損失との使い分け
最後に、前回の貸倒損失との関係を整理します。
貸倒損失と貸倒引当金は、どちらも債権の回収不能に関係する処理ですが、適用場面が異なります。
貸倒損失を検討する場面
次のような場合には、貸倒損失を検討します。
・再生計画や更生計画により債権が切り捨てられた
・特別清算協定により債権が切り捨てられた
・債務免除を書面で行った
・債務者の資産状況や支払能力から見て、債権全額が回収不能であることが明らかになった
・売掛債権について取引停止後1年以上弁済がないなど、形式上の貸倒れに該当する
この場合は、前回の記事で解説した法人税基本通達9-6-1から9-6-3に該当するかを検討します。
貸倒引当金を検討する場面
一方、次のような場合には、貸倒引当金を検討します。
・まだ債権の切捨額が確定していない
・破産や民事再生の申立て段階である
・法的整理により長期分割弁済となっている
・債務超過が続いているが、貸倒損失として全額処理できる段階ではない
・一部について回収不能が見込まれるが、損失として確定していない
このような場合、貸倒損失として処理するには早いものの、個別評価金銭債権として貸倒引当金の損金算入を検討できることがあります。
実務上の整理
実務上は、次の順番で検討すると整理しやすいと思います。
1.その債権は本当に存在しているか
2.債務者ごとの残高はいくらか
3.貸倒損失として処理できる段階か
4.貸倒損失が難しい場合、個別評価金銭債権に該当するか
5.個別評価に該当しない場合、一括評価の対象になるか
6.担保、保証、相殺可能額を控除しているか
7.繰入限度額の計算資料を保存しているか
8.申告書の別表や明細書に適切に記載しているか
特に注意すべきなのは、「貸倒損失として否認されそうだから、とりあえず貸倒引当金にする」という考え方では不十分だという点です。
貸倒引当金にも、別途、税法上の要件があります。
貸倒損失の要件を満たさない場合でも、貸倒引当金の要件を満たすとは限りません。
逆に、貸倒損失として処理できる段階に至っているのであれば、貸倒引当金ではなく貸倒損失として処理する方が適切な場合もあります。
12.まとめ
今回は、法人税法上の貸倒引当金について、特に個別評価金銭債権を中心に解説しました。
貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えて計上する引当金ですが、法人税法上は、会社が自由に見積もって損金算入できるものではありません。
まず、貸倒引当金の損金算入が認められる法人であることが必要です。
その上で、一括評価金銭債権に対する貸倒引当金を計上するだけで足りるのか、或いは個別評価して貸倒引当金を計上する金銭債権がるのかを見極めます。
一括評価金銭債権については、通常の売掛金や貸付金などについて、貸倒実績率や法定繰入率により繰入限度額を計算します。
一方、個別評価金銭債権については、特定の債務者ごとに、次のような事由に該当するかを確認する必要があります。
・法的整理等により長期分割弁済となった場合
・債務超過が相当期間継続し、事業好転の見通しがない場合
・破産、民事再生、会社更生、特別清算等の申立てがあった場合
・手形交換所等による取引停止処分があった場合
また、繰入限度額を計算する際には、担保、保証、相殺可能額、債務者から受け入れている保証金や預り金などを考慮する必要があります。
実務上は、次の点が特に重要です。
・単なる入金遅延だけでは個別評価の対象にならない
・赤字や債務超過だけで直ちに引当できるわけではない
・「相当期間」はおおむね1年以上だが、事業好転の見通しも確認する
・破産や民事再生の申立て段階では、原則として50%基準を検討する
・計画認可後の長期分割弁済では、5年以内の弁済予定額を控除する
・担保や保証により回収できる部分は除外する
・関係会社、役員、親族に対する債権は特に慎重に判断する
・税務調査に備えて、疎明資料を保存しておく
貸倒引当金は、貸倒損失と同様に、税務調査で確認されやすい項目です。
「回収できそうにない」という主観的判断だけではなく、法的手続、債務者の財務状況、担保や保証、回収交渉の経緯などを客観的な資料に基づいて整理することが重要です。
決算時に長期滞留債権や回収不安のある債権がある場合には、貸倒損失として処理できるのか、貸倒引当金として処理できるのか、あるいは税務上はまだ損金算入できない段階なのかを慎重に検討する必要があります。